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恐れを乗り越えた先には『青い城』

ルーシー・モード・モンゴメリ (著) 谷口由美子(訳)(2009)角川グループパブリッシング

「もし、自分が余命一年だとわかったらどう生きる?」

使い古された一見陳腐にすら見えるテーマですが、さすがモンゴメリ。
古さをまったく感じさせない、笑いあり感動ありの爽やかエンタメで最高でした!

アンのスピンオフ、『アンの友達』を読んで思ったのですが、モンゴメリは起承転結をつけるのがとても上手な作家さんなんだなと改めて感嘆しました。

『アンの友達』の感想はこちら

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目次

あらすじ

29歳、独身のヴァランシーは結婚のあてがないことを親戚や家族からあてこすられる苦しい日々を過ごしていました。

そんな時、受診した医師から「余命一年」と記された手紙を受け取ったことがきっかけで、今まで周りの反応ばかりを気にしてきた彼女の人生は全く違ったものに変わっていきます。

感想

※以下、結末のネタバレを一部含むので、未読の方はご注意ください。

29歳独身。今でこそ珍しくもなく悲観されるものでもありませんが、モンゴメリの時代ではまだ風当たりが強かったようです。

そんな当時の密接なご近所付き合い・親戚付き合いのなかでがんじがらめになっている女性、ヴァランシーが主人公。

事あるごとに設けられる親戚の集まりで口にされる、「まだ結婚する気にならないの?(笑)」イジリ、気に入っていないあだ名呼び、更には年齢の近い美人従妹の引き立て役として比較される…等々、散々な扱いを受けています。

そんな扱いを受けながらも、今まで黙って耐えてきたヴァランシーが、余命宣告をきっかけに死を前に恐れるものなど何もない!と吹っ切れる様子は清々しく、力強いです。

これまで、あたしはずっと、他人を喜ばせようとしてきて失敗したわ。

でもこれからは、自分を喜ばせることにしよう。

もう二度と、見せかけのふりはしまい。

あたしは、うそや、見せかけや、ごまかしばかりを吸って生きてきたのよ。

本当のことを言えるっていうのは、なんてぜいたくなことなんでしょう!

今までやりたいと思っていたことを全部やるのは無理かもしれないけど、やりたくないことは、もう一切しないわ。 1

今までは周りの「こうあるべき」姿から逸脱しないように必死で生きてきたヴァランシーですが、ここにきて他人の視点を脱ぎ捨てて自分がどうしたいかを基準に行動するようになります。

突然のキャラ変に母親&親戚たちが「気がおかしくなってしまったんだ…」と動揺する様子はまるでコメディ映画を観ているかのようでした 笑

この本はざっくり二部構成でできており、一部ではヴァランシーが自分の人生を生きることを決め、村のはみだし者の老人とその娘(病人)の世話をする様子が描かれ、二部ではその際に親しくなったある人と契約結婚を行うというロマンス寄りの内容になっています。

二部に入ると雰囲気が少し変わり、モンゴメリの特徴でもある耽美な情景描写がふんだんに堪能できます。カナダのマスコーカ地方を舞台にしているとのことで、是非行ってみたくなりました。

↓湖が有名な場所で、作中にも美しい湖の描写が登場します。 

しっかり恋愛描写を描いている一方で、あくまでもメインはヴァランシー自身の成長にあるので甘すぎる恋愛小説が苦手な人にもおすすめ。

ヴァランシーが契約結婚をする相手、バーニーは「変わった人」として村からもつまはじきにされた男性ですが、周りを気にせずのびのびと生きる姿はとても素敵なんです。

設定が洗練されているので、古さは全く感じない本書。

個人的には、今の時代に漫画化しても問題ないレベルで面白いと思います!

愛のない婚姻関係から二人が本当に恋に落ちるまでの描写
(ヴァランシーの方はかなり初期からバーニーに惹かれていますが、バーニーの方は余命いくばくもないヴァランシーへの同情からの結婚でした)

何やら隠し事をしているらしいバーニーの正体
「絶対に入るな」とバーニーから釘を刺される謎の部屋
☑本気で恋に落ちたバーニーがヴァランシーを失うかもしれないという恐怖に動揺するさま

などなど…

気になるポイントが各所に散りばめられており、なおかつそれが「そうそう!これが見たかったの!」という絶妙なツボを刺激したうえで次々と回収されていくという気持ちよさ…

夢中になって、あっという間に読み終えてしまいました。

気軽に読める楽しい娯楽小説…でありながら、本作の持つメッセージ性は強く、現代に生きる私たちにもとても勇気を与えてくれる内容となっています。

ヴァランシーも決意してから一切揺らがなかったわけではなく、何度か恐れに揺らぎそうになった瞬間がありました。
そんな時に作中でヴァランシーを奮い立たせた格言

「世の中のほとんどすべての悪は、その根源に、だれかが何かを恐れているという事実がある」

これが、この本の核なのだと思います。

タイトルの『青い城』というのは、ヴァランシーの幼い頃からの空想の世界・理想の場所を意味するのですが、ヴァランシーはこの「青い城」を現実に見つけます。

勿論、実際のお城のことではなく…けれど、自分が求めてきた理想の居場所、落ち着ける大好きな場所をヴァランシーは見つけ、そこで暮らすのです。

(心配になっちゃう人もいるかと思いますが、最後は文句なしのハッピーエンドです。そこまでの過程が最高なので、安心してお楽しみください)

ヴァランシーが「青い城」を探そうと積極的に動くのではなく、自分を喜ばせようと決意し、自分が思うままに生きた結果「青い城」を見つける…というところもなんだか示唆的。

ヴァランシーの生き様に勇気をもらえる、とても楽しく素敵な物語です。
人目が気になってしまって疲れてしまったり、しんどさを感じている人に是非お勧めしたい本。

ルーシー・モード・モンゴメリ (著) 谷口由美子(訳)(2009)角川グループパブリッシング

Footnotes

  1. L・M・モンゴメリ(著) 谷口由美子(訳)(2009)『青い城』角川文庫 p.76
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