こちらからマーガレット・マーヒー作品をはじめて知り、虜になりました。
好みは正直分かれる気がするのですが、でも刺さる人には間違いなく刺さる!
日本未公開ですが映画化もされている様子。
※ホラー映画ではありません!
確かにホラー要素じみたものはあるんですが…。ちょっと不気味なところも本作の魅力。
あらすじ
ローラは直感の鋭い14歳の女の子。
ある日、弟のジャッコが怪しい男に呪いをかけられ、ひどく衰弱。どこの病院に行っても手の施しようがないと言われてしまいます。
ローラは同じ学校に通う魔女(ただしその正体を看過しているのはローラだけ)ソレンセン・カーライルに助けを求めに行くのですが、そこで出されたジャッコを救いだす唯一の手立てはローラ自身が魔女になること。
魔女になるには自分を「変身」(changeover)させる必要があり、そのための試練が設けられていました――。
感想
この物語は、弟を救い出すことを目的に動き出しますが、一番の核となるのはローラが魔女になるまでの過程です。
弟に呪術をかけた黒幕との対峙はあくまでもおまけ程度の描写。
そのことを物足りないと感じる人もいるかもしれませんが、私はこの点がすごくいいと思っています。
多くの物語が、物事を成し遂げるために外界に働きかけます。けれど、この物語において、物事を解決させるための鍵は内側の世界にあるんです。
ローラは魔女としての自分に変身するために儀式を行うのですが、まるで夢の中のようなカオスな世界を通り抜けていきます。
ここの描写は一気に情報が洪水のようにあふれ出てくる感じで圧倒されました。
作者のマーガレット・マーヒーさん、只者ではない感じがひしひしとします。頭で考えた文章でなくて、湧き上がってくる文を書き連ねているような…。
命をかけてローラが自分の内側に潜り、生まれ変わる描写は圧巻です。
ソリーが格好いい
ローラが助けを求める学校の先輩、ソレンセン・カーライルーー通称ソリーが魅力的なキャラクターとして輝いてます。
学校での穏やかな性格の優等生はあくまでも表の顔。その正体は代々続く魔女の家系の末裔で、時折闇深い感じを見せるイケメン…
時折見せる暗い顔、脆い姿にくらっときます。
こんなどこかの少女漫画の相手役みたいなキラキラ感を感じるかと思えば、年ごろの少年ぽいところがあったり、自意識過剰気味だったり…ちょっと残念感があるのもいい!
たぶん、一部の女子の好みにクリーンヒットするヒーロー。
気になった人はたぶん素質があるので、読みましょう。笑
※魔「女」なのに、男?という部分にひっかかるかもしれませんが、ソリーはイレギュラーな存在でして、このあたりはソリーの過去にも関わってきます。
性・恋愛への嫌悪から受容へ
母ケートが離婚し、父のいない暮らしのなかでもそれなりに満足していたローラ。
しかし、ケートに新しい恋人が現れ、ローラは動揺します。
ローラの場合は父親がよそに女性をつくり家を出ていったという過去もあって、それが彼女の「性」「恋愛」に対する複雑な心境に輪をかけています。
海外は日本よりもこういうところにオープンな印象ですが、やっぱり何も感じないわけないですよね…。
母の恋愛に対して嫌悪感をもつ一方で、自身もソリーに惹かれて戸惑う思春期の女の子の気持ちがとても丁寧に描写されていました。
この本にはローラとソリー以外の様々な愛も書かれています。
家族愛、母と新しい恋人との愛、はたまた家をでていった父とその浮気相手との愛。
受けいれやすいものから、なかなかそうはいかないものまで…。
命をかけて儀式をのりこえたローラが、今までと違った視点で世界を見るようになるのはまさに「変身」ですね。
物語に流れる雰囲気は説明しようとしてもどうしても零れ落ちてしまう部分。
この作品にはこうして文章では伝えられない独特の雰囲気があるのですが、そこが上手く伝えられないのがもどかしいですね。こちらは是非実際に読んで、感じてほしいです。
誰かと付き合い、愛し合うことをこれほど真剣に描写している作品はなかなかないのではないかなと感じます。
エンタメとしての物語の面白さは勿論ありますが、このどっしりとした確たる物語の芯がビリビリ響いてくる感じ。
児童文学にカテゴライズされる作品ですが、子供向けとはちっとも感じないかなり骨太なお話です。
中学以上が対象のようですが、私は高校生向け…あるいは、自分の性と向き合う時期からが読みやすいかなと感じました。
大人になることへどこか辛さを感じたり、嫌だなと不安になったことがある人。
変化への戸惑いを感じている人に是非お勧めしたい本です。