こういったファンタジー世界と現実世界を行ったり来たりするお話が好きな方には間違いなく刺さるお話だと思います。
ぞくぞくするような不気味さ、それでありながら惹かれる気持ち、現実へ引き戻す手の温かさ。
そんな魅力の詰まった本なので、是非一度手にとってみて欲しいです。
あらすじ
両親を亡くした十一歳の女の子アンシアは同い年のいとこ、フローラの家に引き取られて暮らしています。
今までとはまったく違う暮らしに馴染めないアンシアは夜ごとに「ヴィリディアン」という幼くして命を落とした子どもの作り出した世界に夢の中で迷い込むようになります。
はじめは夢の中の世界に夢中になるアンシアでしたが、フローラの家族に少しずつ馴染んでいくにつれて先に進むことに抵抗を覚えていきます。
ところがヴィリディアンの主のグリフと名乗る子どもは、なにがなんでもアンシアを一緒に連れて行くために夢の世界へ引きずりこもうとするのでした。
感想
両親を失い、引き取られた先の家族に馴染めないアンシアのどこかに行ってしまいたい気持ち。
そんな不幸な境遇におかれた美しい少女アンシアを気の毒だと思いつつも、家族の愛情がとられたような気がして嫉妬するフローラの気持ち…。
二人の気持ちが丁寧に描写されています。
そして、アンシアを夢の世界に引き込もうとする少年グリフの不気味さ!
読んでいて思いだしたのは高楼方子さんの『時計坂の家』という作品。
この作品にも、美しく魅力的な世界が登場し、主人公はその世界に留まるか元の世界に帰るかという選択をせまられます。
どちらも、元の世界に引き留めるアンカーとなる存在がいるのですがこの『危険な空間』の場合は、フローラがそれ。
嫌いというほどでもないもののお互いに相手に対してモヤモヤした感情を持つ少し距離のある二人が少しずつ仲良くなっていく様子も胸が温まります。
アンシアと仲良くやっていきたいという思い。
それと同時に確かに存在する、アンシアがどこか別のところに行ってくれればいいのにという思い。
そうした複雑な気持ちを抱えるフローラがいざアンシアがピンチな時には迷いなく手を伸ばすところがグッときます。
マーガレット・マーヒーさんの別作品『足音が聞こえる』や『めざめれば魔女』を読んで思ったのがマーヒーさんの作品は不気味さと優しさが上手くミックスされてるということ。
決して怖いだけでは終わらせないところが素敵だなと思っています。
主人公を怖がらせる恐ろしさは無暗に配置されているのではなく、その後の救済と愛を描くために主人公が通り抜ける必要のあるもの。
だから恐ろしいパートが存在するように思えるのです。
光を描くために闇を描いているというような。
私はこういう描き方をする作者さんが大好きなんです…!
青木由紀子さんの訳もとても読みやすいのでおすすめ。
いくつか青木さんがされた訳を読みましたが本当に美しい言葉を選ばれるのでついついメモをとってしまいます。
情景描写がとっても綺麗。
こうして海外の本を訳してくれる方がいるお蔭でたくさんの名作に触れられるということを本当に有難く思います。
ちょっと不気味なスリルと読後感の良さを味わえる物語です。