ごく短い児童向けの物語ですが、何度読み返しても面白いです。
子どもの頃から、今に至るまで。
めちゃくちゃ通りの魔法使いたちに何度も元気をもらっています。
あらすじ
小学六年生の上杉リナは夏休みに父親の知り合いが住むという霧の谷に一人で向かいます。
やっとのことで辿りついた住まいは「働かざるもの食うべからず」が信条の意地悪そうなピコットばあさんの下宿屋敷。
そこに住む対価としてリナは霧の谷――通称めちゃくちゃ通りの住人たちのお手伝いをすることになります。
魔法使いの子孫が住むというその不思議なまちで起こる数々の出来事を経験するうちにリナは成長していきます。
感想
現実とファンタジーのバランスが絶妙な塩梅で混じりあうお話です。
「千と千尋の神隠し」の原作となった作品ではありますが
- 不思議な場所に迷い込みそこで働くことで成長する
- 湯婆婆のデザインはピコットばあさんからインスパイアされた?
という要素以外は別物のように感じます。
※ちなみに私は 竹川功三郎さんが挿絵を担当していた頃のものを参照しています
千と千尋は中華ファンタジーですが、こちらは洋風ファンタジーですし、個人的には、同じテーマからこれほど違うお話が生まれることに物語の自由さ、面白さを感じます。
本作は、魔法使いの子孫がいとなむ本屋さんや瀬戸物屋さん、お菓子屋さんなど数々のお店が集まるめちゃくちゃ通りが舞台となっています。
誰もが行けるわけではなくお客さんは、いつのまにか迷い込んだ場所を不思議に思いながら導かれるようにその人に必要なものを買っていきます。
ちなみに私はトケのお菓子屋さんに行ってみたくて仕方がないです!
トケがお菓子を説明してくれるシーンでは毎回味を想像して楽しんでいます。
どれだけ食べても太らないお菓子がうらやましすぎる…。
こうしたワクワクさせてくれる設定だけでなくこちらの胸をうつ言葉の数々もこの作品の魅力の一つ。
リナと同じくピコットばあさんの下宿屋敷に暮らすコックのジョンはこう言います。
「欠点のない人間ほどつまらねえものもねえんでさ。」
その言葉通り、霧の谷、もといめちゃくちゃ通りの人たちはみんな個性豊かで魅力的。
うっかりさんだったりガミガミ屋だったり、口が悪かったり、大人しかったり…そういう、ともすれば「よくないこと」として受け取られてしまう資質が、ここでは自然に受け入れられています。
みんな、「やれやれ困った人だね」なんて言って本気で呆れたり怒ったりしつつ、その欠点もまるっと含めて「でもそれがあの人だからね」と認めている。
誰かが一方的に我慢しているんじゃなくてお互いにそれぞれの欠点を受け入れあっているんです。
で、ちゃんと腹が立った時は我慢せずに怒る。
そこがまたいいなと思います。
それから、同じくピコット屋敷に下宿する発明家イッちゃんとリナの好きなやり取りがあります。
リナはイッちゃんに、
「わたし、西にしずむ太陽の色、大すき。もえているようで、どこかさびしげで。」
と報告した。
「ピンクがすきじゃなかったんですか。」
「だって、わたしのもっている絵の具に、西にしずむ太陽の色なんてないんだもの。」
「いままで気がつかなかったんでしょう。しずんでいく太陽を、見ようともしなかった。」
「そうね。」
リナはみとめた。 1
ここ、初めて読んだ時からずっと心に残っている部分です。
こういう風に自分が見逃している世界の美しさ・素敵さ(それは、誰しもに共通のものでなく、自分の感性による自分だけのもの)があるかもしれない。
読むたびにいつもハッとさせられます。
リナの成長も見どころの一つ。
リナは自分がなにもできないことをよく知っていた。
字はへただし、そろばんも加減しかできない。
学校と学習塾の往復だけで一日が終わってしまうから、
おかあさんのてつだいなんてしたこともない。
だから、料理もせんたくも、まともにできはしない。 2
はじめはこんな風に何もできない(と自分で思っていた)リナがどんどん自分から行動するようになっていく様子は何度読んでも感動します。
最終的にはなんでも人にやってもらおうとする王子に説教して感化させちゃいますからね。
王子→リナへのあわ~い想いもたまりません。
本当にサラッと、短い描写なのにすごくキュンとする部分。
最後の終わり方もとても素敵!
子供向けの本だからと侮らず是非読んでほしい一冊です。
きっとお気に入りの場面が見つかると思います。