湖の近くの新しいお家に越してきたことからはじまったワクワクの宝箱のような物語。
知らない土地を探検する兄妹の様子は秘密基地を作って遊んでいた頃の感覚を思い出させてくれます。
嫌われ者の怪しい地主の謎、そしてその解決の仕方に少しも子供だましなところがないところも魅力。
子どもから大人まで楽しめる冒険譚です!
あらすじ
母のいとこのフェイおばさんの遺言により、ビルたち一家は湖のそばの山荘を譲り受けることに。
今までよりもずっと広い家、そして新しい学校。
ビルと妹のスーザンは新しい暮らしを新鮮な気持ちで受け入れていく。
ところがここら一帯を管理している地主、アルフレッド卿がなんだかきな臭い。
フェイおばさんのボートを使って小島に辿り着いた兄妹は「この湖はボート禁止だ!」と怒声を浴びせられる。
まるで何かを隠しているみたいに…。
小島にはいったい何が隠されているのか?
スーザンの友達ペニーも加わり三人の子どもたちは独自に調査をはじめた――。
感想
1949年に出版されたイギリスが舞台の物語ということもあり用語こそ少々なじみのない言葉がでてくることはあれど(※きちんと巻末で解説があります)ストーリーの面白さは全く色褪せていません。
主人公ビル(小説家志望)の一人称で書かれるので、ビルが感じた興奮や喜びが伝わる文にこちらもぐっと引き込まれます。
私が好きなシーンの一つが、ビルたちが「せせらぎ荘」(山荘の名前)ではじめて迎えた朝のシーン。
朝になっても、まだ雨の音がしていた。ざあざあ降っている。かんべんしてほしいなあ。ぼくはうめき声をあげて目をあけた。
そして思わず息をのんだ。
カーテンのすきまからあふれんばかりに日の光がさしこみ、床のあちこちに日だまりができていた。ぼくはベッドからはねおきて窓辺に立った。
この窓は低い位置にあるうえに壁にほぼ二フィートの厚みがあったので、窓枠はまるで腰かけのようだった。そこへだれかが親切にも、横長のクッションをおいてくれていた。カーテンをあけて外を見た。
うおっ、すごい。目の前が湖だなんて、母さんはこれっぽっちもいってなかった。それだけじゃない。
湖の対岸には木の生えていない巨大な山が、ほとんど垂直にそびえたっていた。山肌は灰色と藤色。ところどころ緑が散り、山全体が雨に洗われたあとで光りかがやいていた。金属のような光沢、もしくは鳩の羽のようなつやがあった。1
引っ越してきた翌日の何かがはじまりそうな空気・ワクワク感を感じられて何度読んでも好きですね。
カギとなる旗ノ湖、ひいてはアルフレッド卿が隠す秘密だけでなく。
日常のちょっとした「いいなあ」とこちらの心をつかむようなシチュエーションが散りばめられているので読んでいて飽きません。
もう一つ、この物語の特筆すべき点は、ビルたちのまわりの大人がそれぞれ魅力を持っていること。
まず、兄妹を一人で育てるビルの母親。物腰柔らかながらも必要な時にはビシッと毅然とした態度をとるところが素敵。お隣さんのタイラー夫婦の大らかで温かみのある性格にも癒されます。
それから兄妹が通うそれぞれの学校の校長先生たち!
物語のキーパーソンとして輝いています。
彼らの知識や知恵が、土地の謎を解き明かす標となる様は歴史小説が得意なジェフリー・トルーズの手腕が発揮されていますね。
この小説を知ったのは、小学生の時の読み聞かせの時間でのことだったのですが、それ以来ずっと大好きな小説でもあります。
読み聞かせをしてくれた学校司書の先生が目をキラキラさせながら「この本は本当に面白いのよ」と言っていたことを今でも思い出します。
その後、読み聞かせをしてもらった子たちの間で争奪戦になっていたっけ…笑
先生が読み聞かせをしてくれなかったら恐らくこの本を手にとってはいなかったと思うので、一生ものの出会いをもたらしてくれた先生に感謝ですね。
老若男女関係なくお勧めできる物語。
名作ですが、堅苦しさはないので時代を超えてこれからも読み継がれてほしい作品です。