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聞こえない声に耳をすませてみたくなる『紙人形のぼうけん』

マーガレット・マーヒー(著) 清水 真砂子(訳) (1998)岩波書店

幼稚園や低学年からの読み聞かせにお勧めできるとても優しい物語。

私は大人になってからこの本に出会いましたが、子どもの頃に出会えていたらもっと良かったな。もの言わぬものたちへの温かな視点を育める本です。

目次

あらすじ

ある暑い日のこと。おばあちゃんはサリーのために五人の紙人形姉妹を切ってくれました。
おばあちゃんは一番最初の女の子に「アルファ」と名付けて、顔を書きます。

サリーは他の四人の紙人形にも顔を描いて名前をつけようと決めていたのですが、二人がその場を少し離れた間に紙人形はどこかへ行ってしまいます。
紙人形の姉妹は風に運ばれ冒険をするなかで出会う人たちに一人ずつ顔を書いてもらうのですが…。

感想

それぞれ別の人たちに顔を与えられる紙人形たち。

みんな個性がそれぞれ違って可愛いです。

それから、絵のタッチがとても綺麗!

表紙の紙人形たちの絵柄とはまた違い、人間や動物たちのタッチがやわらかな優しい画風です。

表紙は濃い藍色という色使いもあって暗い印象を受けたので、ちょっと勿体ない印象。

挿絵の淡くやわらかいこちらのタッチが作風とよくマッチしていたので、表紙もそちらにあわせてくれていたらいいのになあ…なんて思いました。

次の紙人形はどんな性格の子でどんな顔になるんだろう?

そんな続きの気になるワクワク感を楽しめるので読み聞かせにもピッタリだと思います。

ただ紙人形がぼうけんをして終わるのではなく、世界への温かい視点をのぞかせてくれる、とっても優しいテーマを持ったお話です。

例えば、こんなエピソードが。

三番目の紙人形の顔を描いてくれた売れないシンガーのサイモン。

いつも歌詞づくりに悩んでいます。

紙人形姉妹はサイモンによりゴミ箱に放られてしまうのですが(!)

そこで出会ったノートのきれはしがこんなことを言うんです。

わたしはサイモンのために精一杯がんばったが、
なぜかサイモンには、わたしが小声で言ってやることばが、
いまひとつちゃんとききとれなかった。

まったく、たいていの人ができないんだよな、
この地球の声をきくってことが。(中略)

あのときの歌がわたしから出たがってもがいているのを、
わたしは今だってまだ感じているんだ。

みんなにきいてもらいたがってるんだよ。
うたってもらいたがってるんだ。
 1

このお話では、はさみも、そよ風も、鳥たちもみんなみんなおしゃべりします。

私たちが普段使うものとは違った言葉が世界には満ちていて自分では意識していなくても彼らに助けられていたりするのかもしれません。

こういう言葉を「地球の声」と表現するセンス…好きです!!!

何かを見た時に思い出したり、思い浮かんだりすることが実は物言わぬモノたちからのメッセージだったら…

なんだかとてもワクワクします。

そんな世界の見方をしてみたくなる、とっても素敵なお話でした。

ちなみに私はサイモンが顔を書いたエロディーちゃんがお気に入りです!

マーガレット・マーヒー(著) 清水 真砂子(訳) (1998)岩波書店

Footnotes

  1. マーガレット・マーヒー (著) 清水 真砂子(訳) (1998)『紙人形のぼうけん』岩波書店 pp.66-67
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