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フリーゲーム【Persona -The Rapture 感想 】

人気ゲームPersonaの設定を借りた傑作フリーゲーム「Persona -The Rapture」を久しぶりにプレイしました。

作者kiiichiさんは前作「夜明けの口笛吹き」でも有名ですが、哲学を感じさせるやり取りやテーマは現代学園モノに舞台を移したこちらでも健在。

はじめてプレイしたのは、10年前くらい。響く言葉の数々、一度聴いたら耳に残るBGM(なんと全て自作!)なによりキャラの魅力。会話の小気味よさ。

当時も惹かれましたが、今プレイしても変わらず楽しいです!

「RGSS Playerは動作を停止しました」と出る場合
歯車マークのGame内Library=RGSS100J.dllの「100」→「103」に書き換えるとプレイできます。

目次

あらすじ

日野啓一は、ある日イゴールと名乗る者によって、IDEA界へ導かれる。
IDEA界に捕らわれた人間は、永眠病にかかり、そのままだと永遠に目覚めることはない。
同じくIDEA界に介入できるオカルト研究部の新たな一員となり、日野は永眠病患者を救うために協力するが……。
日野を「エットゥヘの飼い犬」と呼び、敵視する教団。
日野の内なる破壊衝動を唆すイゴール。
IDEA界での戦いは、現実世界での容赦のない脅威とリンクし、日野達は否応なく戦いに巻き込まれていく。

感想

以下、ストーリー展開含むネタバレ祭りなのでご注意ください。

「正義VS悪」という単純な対立では終わらない主人公たちの戦いを描く作品は数多くありますが、この作品ではそもそも「戦う事、それ自体のグロテスクさ」が明確に書きだされているのが印象深いですね。

IDEAで犠牲になった鷹取ココロの変貌ぶり。殺されそうになった日野が、咄嗟に刺しかえしたことで京子が死んだこと…。

IDEAで死んだ人間は現実でも死ぬ、という認識ができたあたりから、ストーリーはどんどん重くなっていきます。

特殊能力を授かり、敵をやっつける。そこまで戦いに積極的でなくとも、誰かを、自分を守るために戦う。

ゲームをはじめとする物語によくある設定です。
また、一度は誰しもが空想として憧れる展開でもあると思います。

登場人物たちも、はじめはどこか「ゲーム感覚」が残っていて、それはプレイヤーである私自身も例外ではありませんでした。

だからこそ中盤から突き付けられるテーマにドキリとさせられます。

対峙する相手がどれだけ非情で、自分には理解しがたい思考をしていて、黙って突っ立っていたら自分・仲間が殺されそうでも。
向こうも同じ質量を持った生きてる人間で、そんな彼らを大事に思う人たちがいるんですよね。

良い・悪いの次元ではなく、どれほど正当な理由があろうと、あるいはなかろうと「人を殺したという罪悪感、その重さに耐えられるか?」という点がどこまでも克明に描写されます。

そもそも「私たちは誰かを傷つけずに生きていくことはできるのか?」

フィクションの世界だからと油断していると、普段なあなあに折り合いをつけているこちらの価値観・倫理観をぐらぐらと揺さぶってきます。

重すぎる命題に悩むそれぞれのキャラが本当にリアルでした。どのキャラのなかにも、身に覚えのあるような感情や悩みが散らばっている。そんな風に思います。
だからなのか、raptureのキャラクターは、ふとした瞬間、日常のなかで存在を思い出すことが多いです。

以下、キャラ別感想です。

日野 啓一

ゲーム内においては、プレイヤー選択形式の基本的に喋らない系主人公。
やけにぶっ飛んだ選択肢があるなぁ…と思っていたら、公式サイト後日談をみるにそれこそが彼の正式な言動なのかもしれない。

人のBMWに吐いた時の言い訳が「バイオリズムの巡りが云々」なの、いい性格すぎるw

たぶん顔の良さと土壇場の胆力のみで社交上の問題を全部なんとかしてる人。

影のあるイケメンということで作中でも女性からモテまくってますが、それがなんとなく理解できてしまう…。

女殺しだなあとおもいます、いろんな意味で。
身内への淡泊ぶり(愛はあるものの)を見ていると、奥さんは苦労するぞこりゃ。

山田・藤枝とフラグがたってますが、関係性が両者で異なるのも面白いですね。

選択肢にもよりますが、山田は、日野が追いかけて成立する日野→山田な感じなのに、藤枝は藤枝→日野という図式。

まあ、追わないと山田は逃げてしまうからね…。山田エピソードで見せる、決して手を離さない日野はカッコイイと思います。

追いかけないで「さようなら、山田」とあっさり見送るのも日野らしいと言えばらしくて好きですが。

鷹取がいなくなった後の彼のメンタルが心配ですが、彼女以外にも大事だと思える人たちと絆が育めていることが救いでしょうか。オカ研があってよかった。

鷹取 ココロ

raptureを語るうえで欠かせない人。明かされる設定全てに驚かされてばっかりです。

まず、プレイヤーが慣れ親しむ鷹取ココロと、本来のココロ先輩は違うという点。

助けられた!と思いきや、やはり、オリジン・ココロ先輩はIDEAで死んでしまったのでしょうね。全てが失われたわけではないのでしょうが。

まだゲームが始まったばかりで、大して鷹取ココロへの知識がない状態。
だからこそ、日野(とプレイヤー)はその変貌ぶりをスムーズに受け入れることができますが、他のオカ研メンバーの戸惑いは推して知るべし。

山田はストレートにその苛立ちをぶつけていましたが、幼馴染の石神・大河原あたりの心境を考えるとしんどいですね。

そして後日談……

「本編の鷹取は日野の持つ力によって生かされていた」という前提があって、

⇒日野がイゴールと決別し力を失ったため、動力源を失った鷹取も時間差で消失

という流れなのかな。

ハッキリとは書かれていないので、推測でしかないですが。

比良坂ヨミと鷹取はやっぱり、根本的に似た存在だったのかな。ヨミは人類の無意識の創造物、鷹取(本編)は日野の創造物、という観点で。

冷たいように見えてそうでもない、時々びっくりするくらい天然なところが本当に可愛いです。だからこそ後日談の喪失感が強い……。

彼女がオカ研に残していったものはきっと生き続ける、そういう意味でちゃんと鷹取は生きた軌跡を創造できたのだなと思います。

春日 陸

オカ研の弄られキャラが定着してますが、さすが日野の友達をやれているだけあって、ただのギャグ要因ではない。

馬鹿をやることもあれば、びっくりするほど人への洞察力があったり。

頭が回るゆえに初期はオカ研メンバーへの疑心と猜疑心を抱いていました。

あれだけ最初ギスギスしていた石神・大河原とも終盤すっかり馴染んでいて、本当に良かったなと。

IDEAで最悪の関係性になって「こんなんになっちゃって、もう仲良くできるわけない!」という主旨の発言をしていましたが、そこから持ち直せるところがオカ研のすごいところ。先輩二人の器もでっかいんですよねぇ。

いじられた時の返しが面白いので、大河原先輩が気に入るのはわかる。二人の掛け合い好きです。

藤枝は日野に夢中ですが、春日と藤枝の会話も二人ならではの空気感があって、読んでいて楽しい。

どっちも一つのことをじっくり突き詰めて考えるタイプで文芸部繋がりなので、似たものはあるのかな。

見た目と言動でちょっと子どもっぽく見えたりもする春日ですが、ペルソナの一つがタロットカードの「隠者」なんですよね

そんな内省的・冷静な視点をもっているせいか、後日談の春日視点はかなり淡々とした語り口。

その中の一篇で事故に遭い、右耳の聴力がほぼ失われてしまうのですが、それも「あーあ」って感じで比較的すんなり受け入れている印象。むしろこっちが現実を受け入れられない。

なんでまたそんな……辛い……そういえば、10年前も本編後のわいわいきゃっきゃなエピローグを想像して読んで打ちのめされたなぁ……この読後感も含めて好きなんですけどね…

山田 ちなみ

さっぱりしているように見えて、ものすごく色々考えるタイプ…自分の「こうしたい」よりも「こうあるべき」を優先しがち…。しかもそれを他人にも無意識に押しつけがち。

仲良くしていた幼馴染とのエピソードがまた、ねぇ。

密かに思いを寄せていたそのうちの一人から告白されても、もう一人の幼馴染の女の子の気持ちを汲んで無下に断る山田。
翌日、その子と想い人が付き合い、三人の友情は呆気なく瓦解。

真っすぐなのに不器用で、だからこそ「幸せになってくれ~…」と願います。

フラれたあと速攻でもう一人の幼馴染の方にいく男は大抵ロクなやつじゃないから、別の人と幸せになって欲しいんだけどね。

でも「卑怯じゃん」と言いたくなるくらいなら、自分ルールに縛られないでもっと自由に生きてくれ山田ー!!という気持ちになります。

本来抱え込まなくていい苦労を自分で背負い込んでいくので、きっとしなくていい苦労も今後たくさんするのでしょうが、まだ高校生ですからね。

恋愛に興味はある、でも女として見られるのが怖くて、いざ好意を向けられると逃げたくなってしまう。

女性の面倒くさい部分の解像度が高すぎる!

藤枝もまた別ベクトルで面倒くさいのですが、どちらもわりと共感できるんですよね…笑

ちなみに、IDEAでの倫理観に関しては、山田の性格とは関係なしにきつい決断だったなと思います。

IDEAでの殺人は現実での殺人。相手に襲われても、自分は殺したくない。

いざ襲われても動けない自分(この点、咄嗟に刺し殺せる日野とは対照的)を守るため、かわりに殺人を犯した鷹取を見てはじめて自分たちが置かれている切羽詰まった状況に気付く…。

実際、石神・大河原のように割り切れる人の方がわずかなんじゃないでしょうか。彼女のように、理想と現実の狭間で揺れて、ギリギリの判断を行う人が大半だと思います。

山田のきっちりした正義感は窮屈な一面があるかもしれませんが、日野が闇堕ちしそうになったら物理で目を覚まさせてくれそうで信頼できます。

藤枝 百合花

人の頼みを断らないことを、第三者からイジメと規定されたことで居場所を失うくだり、さもありなんと思いました。

なんでも名前がつけられてレッテル貼りされてしまう時代ですが、言語化されていないことで救われることもあるのかなあと思ったり。逆のケースも多いことは承知のうえなのですが!

大人しいけれど、内側には確固とした藤枝ワールドがあって、もともとかなり拘り?というか芯は強いタイプに見えます。

オカ研に加入してからは、大人しいながらも、かなりしっかり自己主張をしている印象です。後日談だと、愛犬ココアをめぐって大河原先輩に随分理不尽な対応をとったりしてますが…(先輩が死ぬほど大人げないのも面白い)

>藤枝という存在を一番持て余しているのは、他でもない当の藤枝自身なのだ。

という春日による藤枝評がとても好きです。

でも、生まれちゃった以上、自分からは逃げられないから、仕方ない。

藤枝の諦めと肯定が混ざったポガティブ?な考え方が好きです。

世界への諦めとか、やりきれなさとかも全部飲み込んで生きていこうとする姿勢に真摯さを感じます。

廃墟の中で一人きりでいる自分を夢想する日野。静かな世界を好み、廃墟に美を感じる藤枝。
二人はどこか似ている部分があるので、藤枝が日野にすごく惹かれるのはわかるな。ちょっぴり危うさも感じますが。

山田も藤枝も生きづらいタイプにあたると思いますが、そんな不完全な彼女たちがヒロインだからこそ心にひっかかって、またraptureをクリアしたくなるし、ふとした瞬間に思いだすのだと思います。

石神 賢司

オカ研の頼れる先輩。老成・達観した雰囲気がありながら、やはり高校生。

IDEAでの力を無意識に現実世界の思考にも持ち込んでいて、現実世界のヤクザにも向こう見ずな対応をしてしまったり…血気盛んな部分も見られました。

実際、もしも自分に特別な力が宿ったら?
自分をどんなに戒めたところで、自尊心をじわじわ心地よく蝕まれるのだろうなあと思います。

余談ですが、作者さんがカクヨムで連載されていた「イノー」は、この「思いがけぬ力を手にした若者の歪んだ全能感」の描写がさらに細かく描かれていてこちらも面白かったです。鬱屈したやるせない空気感。重たいけど好きでした。

とはいえ、石神の場合、一度道を踏み外しそうになっても、内省して落ち着きを取り戻せるところがさすが。

兄の婚約者、なつめさんをめぐる一連のエピソードもとても好きでした。

親に決められた人生、この先もレールに沿い続ける人生に辟易しているなつめが賢司に悪魔の誘惑をささやきますが、いや~~悪い女性ですね~~😣

自分ではレールを外れる勇気がでないから、誰かに連れ出してもらおうとする。それも、大人である自分がなんとかするのではなく、思春期真っ最中の高校生男子にお願いするところが、また狡い!

春日・大河原・日野の悪ノリによって「お兄ちゃん♪」に変えられた着信音が突然鳴り響く描写……それによって我に返る石神……このくだりは何度見てもおかしくて、石神の心境を考えると切ないです。

なつめさんは舌打ちしたい心境だったかと思いますが、あそこでなつめさんの手をとっていたら、IDEAでの戦いも完遂できなかっただろうし、本当に良かったと思います。

山田同様に正義感・義務感が強く、でも仲間を守るためなら自分の手を汚すことも厭わない、とにかく肝の据わったオカ研の大黒柱的な存在。

彼失くしてはオカ研はありえなかっただろうし、維持も難しかっただろうな。

モブのいうように「無理してない?」と感じる場面があるからこそ、幸せになってほしいです。

大河原 琢己

この人が嫌いな人いるんだろうか。とてもいいキャラですよね。

気分屋で口が悪いけど憎めない。学校では一匹狼として知られていますが、実のところ人情に厚い部分もあったりする。

藤枝や春日のような、自分の言うことにいちいちムキになるタイプが大好き。

オカ研にいるのは、石神と鷹取という幼馴染組の絆あってのものだと思うのですが、だからこそ鷹取にまつわるあれやこれやを考えると気の毒で胸が痛みます。

それが恋だったのかはともかく、鷹取が大切だった人なのは確かで。

イゴールとの決戦時に挟まる夢は各キャラの願望の混じったものだと思うのですが、そこで大河原が見る夢が「幼い頃の自分・鷹取・石神」なのがとても切ない。

日野に対しても、「面白い奴」という好意とは別に、どこか自分のテリトリーを侵されたようなモヤモヤを抱えているところがいい。人間、そういうもんだよね。

子どもの頃からの真っすぐな願いを今も胸に秘め続ける一方で、現実と理想の遠すぎるギャップ、ままならない現実に苛々する感じは、なんだかわかる気がしました。

威勢も覚悟もあるタイプですが、それに力が伴わない。そんな無力感を抱えているのかな。
それが石神に守られ、ココロも守れなかった、という独白に繋がると…。

フラフラしてるように見えて……実際それなりの年齢までフラフラするタイプだと思いますが、一本気の通った職人気質ぽいので、一度腹が決まったら、街のラーメン屋の名物おっちゃんになってくれる気がするんですよね。

後日談にもでてくるゴス少女エリカや、街で出会う人への対応を見ていても、すごく程よいスタンスで人と接している印象。

後日談について

ゲーム本編は、日野が内なるシャドウを打ち倒し、爽やかに終わります。
が、後日談を見る限り、これからも主人公たちは変わらず様々な悩み・葛藤を抱えて生きていくのだなという現実を思い知らされますね。

そのリアルさが、キャラクターが生きている感じにも繋がるのだろうなとも。

大人になったオカルト研究部のメンバーはどんな感じになるんでしょう。
なんだかんだでずっと連絡を取り続けていそうでもあるし、あっさり疎遠になっていそうでもあるし。

どちらにせよIDEAで過ごした時間と思い出、共有した記憶は、みんなの中に残り続けるんでしょうね。

ゲーム内で、鷹取が「神と人との関係」を、「プレイヤーとゲームのキャラ」に例えるのですが、この台詞がとても好きです。

「プレイヤーが今、私たちをゲームの駒として遊んでいるとして……

少なくとも、私たちはプレイヤーに影響を与えている。

私たちがゲームに影響をうけるのと同じでね。

そうやって影響は相互無限に広がっているわけで、

どちらが駒かどうかなんて誰にも言い切れないわ」

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